揺蕩うピーチ 12
2014/12/06 (Sat) 08:00
『樹さ、四月から転勤なんだ。アメリカに』
その時に聞かされた樹が目の前に現れた。
もう二度とこの兄弟には関わりたくないと強く願っていたのに。
さらには、司を交えた三人で会おうとまで誘われる。
「連絡するから、ちゃんと出ろよな。じゃないとまた奇襲訪問するぞ。俺から離れられるなんて思うなよ」
樹はぶつけるように言う。
言葉とは裏腹にそっと微笑んで。
笑った顔。表情の作り方。物腰の振り幅も正弘さんに似ているなぁ。
美咲は玄関に立つ樹を見て思った。
美咲よりも二時間早く家を出る、そして、約束の一週間が終わった朝だった。
「ハニー、一緒に住もう。本気で。俺、本気だよ」
うん……と言えないまま、美咲は頷く。
「あー、一発やっとくか?」
まるで別れの景気付けのように言ってから、樹はボストンバッグとビジネスバッグを床に置いた。
「ちょっと、ダメでしょ。遅刻する」
「してもいい」
樹は手を引いて、美咲を抱きしめる。
「ダーメ。ダメッ」
美咲はふざけるように暴れる。
私の方がしたくなってしまう。
樹さんの匂いに、抱きしめる形に、温もりに、いっそう深まった性感が揺さぶられる。
昨晩もしたのに。一緒に同じベッドで眠ったのに。
覚えたそれらは私を放さない。離したくない。
それを誤魔化したかった。
「もう、早く行きなさい」
美咲は樹の背中のYシャツを引っ張った。
樹は真摯に美咲を抱きしめる。
「好きだ。ずっと一緒にいたい」
隠せない切なさが滲む声。
「美咲にしか言わない。絶対に言わない。だから、俺にもちょうだいよ。美咲が俺にしか言わない言葉」
うん、うん。
頷いても、熱くて揺るぎないものが込み上げるのに、言葉にはならなかった。
「じゃあな」
とスペアキーを置いて樹が出て行ったドアを独りで開ける。
「ただいまぁ」
言っても何も聴こえない。
この一週間で二回だけ聴いたのに。
『おかえり。ハニー』
って。
聴かなくても、二人分の夕飯を作る楽しみはあった。
『ハニー』『みーさきっ』『ただいま』を聴くために。
『囚われのお姫様』
あれは手錠に繋がれたことではなく、今の自分を揶揄していたのじゃないか。
過去に、過去が生んだこの部屋に、ずっと繋がれたまま生きていくのかと問いたかったのじゃないか。
そんなことを思いながら美咲は自分が作る音だけを聞いて一人分の夕飯を作った。
初めて、独りの部屋が寂しいと思った。
寂しさを覚えても、赤羽の誘いには乗れない。
夕方、急にあった誘いを断って帰って来た。
ほぼ毎朝階段で触れてくれる指にも、樹と再会した翌日には何も感じなかった。
好きなのか嫌いなのかと問われたら、好き……だった。想いが薄らいでそんな気持ちに初めて気が付いた。
付き合い方としてはセックスだけだったのかも知れない。
けれども、そのセックスに救われた。今の充実した自分があるのは赤羽のおかげだと言っても過言ではない。
でももう……したくない。
それは、松永も同じだ。
二人とも既婚者ではあるが、偽りなく向き合ってくれたと信じている。
そして、樹とうまく距離をとるためには他に男性がいた方がいいとも解かっている。
だけど……触れて欲しいのは、抱きしめて欲しいのは……樹だ。
樹さんだけがいいの。
『美咲』……熱い吐息の狭間で呼ばれる声を思い出しながら、大きなベッドの中で美咲は目を閉じた。
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その時に聞かされた樹が目の前に現れた。
もう二度とこの兄弟には関わりたくないと強く願っていたのに。
さらには、司を交えた三人で会おうとまで誘われる。
「連絡するから、ちゃんと出ろよな。じゃないとまた奇襲訪問するぞ。俺から離れられるなんて思うなよ」
樹はぶつけるように言う。
言葉とは裏腹にそっと微笑んで。
笑った顔。表情の作り方。物腰の振り幅も正弘さんに似ているなぁ。
美咲は玄関に立つ樹を見て思った。
美咲よりも二時間早く家を出る、そして、約束の一週間が終わった朝だった。
「ハニー、一緒に住もう。本気で。俺、本気だよ」
うん……と言えないまま、美咲は頷く。
「あー、一発やっとくか?」
まるで別れの景気付けのように言ってから、樹はボストンバッグとビジネスバッグを床に置いた。
「ちょっと、ダメでしょ。遅刻する」
「してもいい」
樹は手を引いて、美咲を抱きしめる。
「ダーメ。ダメッ」
美咲はふざけるように暴れる。
私の方がしたくなってしまう。
樹さんの匂いに、抱きしめる形に、温もりに、いっそう深まった性感が揺さぶられる。
昨晩もしたのに。一緒に同じベッドで眠ったのに。
覚えたそれらは私を放さない。離したくない。
それを誤魔化したかった。
「もう、早く行きなさい」
美咲は樹の背中のYシャツを引っ張った。
樹は真摯に美咲を抱きしめる。
「好きだ。ずっと一緒にいたい」
隠せない切なさが滲む声。
「美咲にしか言わない。絶対に言わない。だから、俺にもちょうだいよ。美咲が俺にしか言わない言葉」
うん、うん。
頷いても、熱くて揺るぎないものが込み上げるのに、言葉にはならなかった。
「じゃあな」
とスペアキーを置いて樹が出て行ったドアを独りで開ける。
「ただいまぁ」
言っても何も聴こえない。
この一週間で二回だけ聴いたのに。
『おかえり。ハニー』
って。
聴かなくても、二人分の夕飯を作る楽しみはあった。
『ハニー』『みーさきっ』『ただいま』を聴くために。
『囚われのお姫様』
あれは手錠に繋がれたことではなく、今の自分を揶揄していたのじゃないか。
過去に、過去が生んだこの部屋に、ずっと繋がれたまま生きていくのかと問いたかったのじゃないか。
そんなことを思いながら美咲は自分が作る音だけを聞いて一人分の夕飯を作った。
初めて、独りの部屋が寂しいと思った。
寂しさを覚えても、赤羽の誘いには乗れない。
夕方、急にあった誘いを断って帰って来た。
ほぼ毎朝階段で触れてくれる指にも、樹と再会した翌日には何も感じなかった。
好きなのか嫌いなのかと問われたら、好き……だった。想いが薄らいでそんな気持ちに初めて気が付いた。
付き合い方としてはセックスだけだったのかも知れない。
けれども、そのセックスに救われた。今の充実した自分があるのは赤羽のおかげだと言っても過言ではない。
でももう……したくない。
それは、松永も同じだ。
二人とも既婚者ではあるが、偽りなく向き合ってくれたと信じている。
そして、樹とうまく距離をとるためには他に男性がいた方がいいとも解かっている。
だけど……触れて欲しいのは、抱きしめて欲しいのは……樹だ。
樹さんだけがいいの。
『美咲』……熱い吐息の狭間で呼ばれる声を思い出しながら、大きなベッドの中で美咲は目を閉じた。
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